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東京高等裁判所 昭和36年(ツ)61号 判決

上告人 島田富美子

被上告人 栗山宝二郎 外二名

主文

本件上告をいずれも棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

本件上告理由は別紙上告理由書記載の通りである。

上告理由第一点について、

原審の口頭弁論調書によれば、被上告人勝田テル及び同梅垣昭夫両名の訴訟代理人は本件係争建物について所有権(共有)を主張し上告人に対し所有権に基く明渡を求め、上告人が右建物について賃借権を有する旨の抗弁を否認していたものであるが、昭和三十五年十一月十一日の口頭弁論期日において、仮に上告人に賃借権があるならば同日上告人に対し解約を申入れると述べ、それについて正当の事由が存することを主張し、上告人訴訟代理人はこれを争い、双方は他に主張も立証もないと言うので、同日口頭弁論が終結され、昭和三十六年二月二十五日原判決が言渡されたものであることが明らかである。而して解約申入は六ケ月前にこれをなすを要することは借家法の明定しているところであるから、被上告人勝田梅垣訴訟代理人はその点を承知の上最終口頭弁論期日に解約申入をしたものと推認される。されば同代理人は第一次的には係争家屋の即時明渡を求め、予備的に将来の明渡を求めている趣旨と解すべきであるから、原判決が上告人の賃借権を肯定した上、その賃貸借契約は被上告人勝田、梅垣の前記解約申入により昭和三十六年五月十一日限りで消滅すると判断し、上告人が被上告人勝田、梅垣に対し同日限り係争家屋を明渡すべきことを判決したことは、申立てない事項について判決したものということはできない。

而して上告人が右の解約申入は正当の事由がないと争つていることは前記の通りであるから、解約申入の日より六ケ月を経過しても任意の明渡を期待できないものと推断され、従つて被上告人勝田、梅垣は上告人に対し将来の給付を訴求する利益があるものと解すべきである。この点が原判決理由中に明示されていないことは所論の通りであるが、右に述べた双方の主張が摘示されているので、将来給付を求める利益の存することは原判文上推断できるし、将来給付の訴の利益は所謂訴訟要件の一であつて、職権で調査すべき事項であり、訴訟要件の存在は当事者が特にこれを争わぬ限り判示する要はないものと解されるところ、原審において上告人は六ケ月後と雖も明渡義務のないことを主張するだけで格別将来給付の訴の利益の存しないことを主張した形跡は見当らないからその点の判示がないと非難する所論は採用できない。

加うるに権利保護要件の存否は事実審における口頭弁論終結後に生じた事実でもこれを斟酌して決すべきものであることに鑑みれば、将来給付を命ずる判決に対し上告が提起され上告審に係属中その履行期が到来しもはや将来の給付を求めるものでなくなつたときは、その事実もまた訴の利益の存否につき斟酌されねばならない。してみると現に履行期が到来している以上将来給付の訴の利益を論ずる余地はないものというべきであるから、この点に関する所論は採用できない。

上告理由第二点について、

原判決は解約申入について正当事由の有無を判断するに当り所論引用の事実のほか、(1) 本件二コマの建物は昭和二十二年頃建てられた粗末なバラツク建築様式のものであつて、これを占有使用していた上告人らが逐次修補改善し、使用に堪えるようにしていたこと、(2) 上告人は現在右二コマに居住せず、これを材料置場に使用しているに過ぎないこと、(3) 本件二コマを除く他の店舗については被上告人勝田らと借家人との間に示談が成立し、同人らは借家より退去し、その建物は全部収去されその敷地は空地になつたこと、(4) 本件土地の所在地は東京都中央区築地二丁目二番地に位置し、都内において有数の商業地であるのに、本件二コマの存在によつて三百五十六坪余が全一体として有効適切な利用価値をもち得ないであろうこと及びその利用のためには本件二コマを解体する必要があるであろうこと、(5) 被上告人勝田らが右二コマの存在により右敷地を全一体として利用しえないことにより蒙むる損害は上告人が右二コマを使用しえないことによつて蒙むる損害に比し遥かに大なるものを予測しうること等の真実を認定しているのであつて、和解に対する双方の態度が所論の通りであるとしても右にあげた事実を勘案すれば、被上告人勝田らの解約申入は正当の事実があると認めざるを得ないのである。されば和解に対する双方の態度の認定について原判決に採証の法則違背があるとしても、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がないことに帰するから所論は採用できない。

以上の次第で本件上告は理由がないので民事訴訟法第四百一条、第九十五条、第八十九条に各則り主文の通り判決した。

(裁判官 梶村敏樹 室伏壮一郎 安岡満彦)

上告理由書

第一点昭和三十六年二月二十五日言渡された原判決は其の主文に於て「控訴人は控訴参加人らに対し昭和三六年五月一一日限り別紙目録記載の店舗二コマを明け渡すべし」と判示した。

即ち原判決主文は民事訴訟法第二百二十六条に所謂将来の給付の判決である。

(1)  然るに原審に於て被控訴参加人らから将来の給付を求める請求が無いに拘わらず原審は将来の給付を求める判決を為した。

(2)  又民事訴訟法第二百二十六条に依れば「将来ノ給付ヲ求ムル訴ハ予メ其ノ請求ヲ為ス必要アル場合ニ限リ」之を許される明文があるに拘わらず原審に於て被控訴参加人は其の主張も立証もない。

(3)  原判決理由によれば参加人等が昭和三五年十一月十一日午前十時の本件口頭弁論期日において控訴人に対し解約の申入れをしたことは記録に徴し明かであることを述べ以下其の解約申入れが正当の理由に該当する所以を説明して居るけれども、民事訴訟法第二百二十六条に所謂将来の給付判決を為すに必要なる理由については何等触れるところが無い。

以上要するに原判決は控訴参加人の請求せざる将来の給付について判決し且つその必要性について理由を示さない違法がある。

第二点

(1)  原判決は其の理由中

『次に参加人らが昭和三五年一一月一一午前一〇時の口頭弁論期日において控訴人に対し解約の意思表示をしたこと本件記録に徴し明かである、そこで右につき正当事由の有無について判断するに本件二コマを除く他の店舗建物についてはその借家人との間に示談解決し同人らはそこを退去し、その建物は全部収去され……中略……しかも参加人らは当審において控訴人らを含む原審被告田代しなほか四名(他の四名は前記建物一一むねの一部に居住ないし営業していたものであること本件記録に徴し明かである。)に対し移転料提供と引き換えに右占有部分から退去明渡を申出たのに対し控訴人を除く他の者はいずれもこれを甘受して示談解決したのに控訴人は右申出を拒否し現在にいたつていることの当裁判所に明かな事実等を考慮すれば参加人らが本件二コマについての賃貸借解除申入をするにつき借家法所定の正当事由がある場合に該当するものと認めるのが相当である』と判示した。

(2)  然しながら前記原判決は理由に齟齬がある、何となれば前記原判決理由は参加人らが移転料引換えに退去明渡を申入れたるに対し控訴人を除く他の者はいずれもこれを甘受して示談解決したのに控訴人は右申出を拒否し云々と摘示しているけれども、控訴人も亦、他の者と同様の条件ならば他の者と同様に示談解決に応諾する旨を回答し来つたこと本件和解の経過に徴し明白であり原審裁判所に顕著なところである、然るに控訴参加人らは控訴人(上告人)の父島田寛治郎か本件宅地に隣接し電車通りに面して所有する宅地(原判決添付図面11・12・13・14・15・16・17・18と電車通りの間に囲まれたる部分)を買受け度き希望を表明し参加人ら自ら控訴人に対する示談解決は右訴外宅地売買交渉と一括すべく後廻しにしたものである。

控訴人が示談解決を拒否したものでないことは和解の経過に徴し明白であるのみならず上告人は現在と雖も他の者と同様の条件であるならば本件につき示談解決につき応諾する意思と用意がある。

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